私の描く景色に人の姿はない。絵の前を訪れる人々が描かれた景色の中に入り込み介在することによって私の絵画は完成する。生まれ育った北海道の風景や私生活の一場面をモチーフとし、日々抱く欠落感、孤独、郷愁の想いを解きながら人々の心情に寄り添える物を描きたい。「私における原風景とは何か」その問いかけと回想の時間は、デジタルメディアによる全てが高速に処理されていく現代社会の暮らしに一瞬の安らぎを与えてくれる。またそれらは、自己価値観の形成の出掛かりであり、心の拠り所でもある。
さらに、実際に絵を描いている時間と、手を休めて絵を見ている間にやってくる、具体的な形態の中から抽象的イメージが現れてくること、地と図が絡み合う中から新たな形を見つける瞬間は、森の中を歩いている時にふと周りを見渡すと自分がどこに立っているか分からなくなる感覚や、急に辺りが薄暗く感じ一気に不安感に襲われるような、自然の驚異と恐ろしさを経験することに類似しており、その想像力の余白は、寧ろ描かない部分にこそ宿るように感じている。人々原風景を再構築する手段を提示することが私の役割であると考える。そして「私の眼」を通した光景を他者と分かち合うことが出来るならば、それは幸せなことである。